総務省開催の「みんなの公共サイト運用ガイドライン」に関する講習会を受講した人からのご質問にお答えします。
取組対象の把握と設定
Q : 取組対象とは何か?
ウェブアクセシビリティ方針に必ず記載すべき「対象範囲」のことです。利用者が分かる内容(URLなど)で記載することが大切です。
ガイドラインは、団体がWeb(インターネット)を使って国民(利用者)に提供している情報(ウェブコンテンツ)全てがアクセシビリティ対応の対象なので、「公式ホームページ」、「観光サイト」、「施設予約システム」など全てが対象になるとガイドしています。
しかし、これらの全てを同一のウェブアクセシビリティ方針とする必要はありませんので、担当しているウェブサイトを対象範囲として問題はありません。
Q : 複数の異なるウェブアクセシビリティ方針を公開しても問題は無いのか?
ウェブアクセシビリティ方針に記載する、目標を達成する期限、目標とする適合レベル、担当部署などがウェブサイトにより異なるのは当然ですから問題ありません。利用者にそれぞれのウェブアクセシビリティ対応情報を正しく提供することが大切です。
対応状況の把握
Q : 専門家では無い職員には対応状況の把握は可能か?
チェックツールで「悪さ加減」を把握することは可能なので、簡単にできる「悪さ加減」の把握方法をご紹介します。
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複数ページの悪さ加減は当社のクラウドBFS-Mで確認できます。
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W3Cが提供するバリデータサービスで確認する方法
- https://validator.w3.org/にアクセスして確認したいURLをコピペしてチェックしてください。エラーに数などが確認できます。
- 無料の英語サイトです。
- エラー内容の理解には、HTML等の知識が必要です。
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当社のクラウドmiCheckerで確認する方法
- https://accessibility.jp/cloudmick/auth/loginで総務省のmiCheckerチェックツールが利用できます。
- クラウドサービスなのでPCにソフトウェアを導入する必要はありません、庁内LANからも利用できます。
- 検査状況をメールするため、メールアドレスの登録が必要です。
- 10ページ程度の利用であれば無料です。
- miCheckerの「問題あり」数、「問題の可能性大」の数や指摘されたコンテンツや場所が分かります。
- チェック結果を理解するにはHTMLの知識が必要です。
利用者の使用するソフト等を用いて確認する方法には、当社のやさしいブラウザ・クラウド版(有料)を利用して確認することができます。
Q : 専門業者に依頼するには予算がどのくらい必要になるか?
試験方法には、(1)人による詳細な確認、(2)チェックツールによる確認、(3)利用者の使用するソフト等を用いて確認する方法がありますので、当社のサービス費用を紹介します。
- 人による詳細な確認 1ページ15,000円~
- 認定検査機関に登録した資格を持つ検査員が適合性評価検査を行います。
- 1ページ平均500箇所から900箇所のウェブコンテンツの適合性評価を行います。
「ホームページ」、「施設予約サイト」などなど利用者がブラウザで利用する全てのウェブコンテンツが
「アクセシビリティ」が日本で余り馴染みの無い用語(英語)なので出る質問です。「アクセシビリティ」を馴染みのある「バリアフリー」に置き換え、「Webバリアフリー」であれば少し分かりやすいと思います。
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身体が不自由な高齢者や障害者がWebを利用するのに支障が無いようにWebを制作し公開することと理解してください。具体的には、
- Webのテキストを音声で読み上げるブラウザを利用する視覚障害者のために、画像や写真などを説明するテキストを挿入する。
- 視力が弱くなった、色の識別が難しい利用者のために、背景色を利用者が変えられる、または文字や画面を拡大してもレイアウトが崩れないようにする。
- 身体が不自由でマウスを使えない利用者のために、キーボード操作だけでも利用できるようにする。などなどです。
しかし、上記の理解だけでは不十分です。Webを利用するのは人間だけではありません。検索ソフトやプログラムなども利用しますので、次が適切な回答と思います。
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Webアクセシビリティとは、Webを利用するさまざまな利用機器への対応性を確保したWebを制作することと理解してください。
Q :ウェブアクセシビリティの重要性について説明してください。
Webアクセシビリティとは何かを理解いただければその重要性は分かっていただけると思います。ご質問は、Webアクセシビリティで無い場合に生じる問題の重要性についてと思います。
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Web管理者が意図せずに、一部の利用者を差別する結果になる場合があります。次はこの問題が顕在化した事例の一部です。
- オーストラリアで開催したオリンピックのWebが、アクセシビリティに対応していなかったため、視覚障害者が差別をされたと訴えた。結果はオリンピック委員会が敗訴して修正を命じられた。
- 米国の通販サイト(target.com)を利用しようとした視覚障害者の学生が、登録に求められたCAPTCHA(コンピュータと人間を判別するためにわざと不明瞭にした画像)の識別ができず利用できなかった。この訴えは集団訴訟となり多額の和解金を支払う結果となった。
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Webの提供情報が正しく伝わらない、または誤って伝わる、などの問題が与える影響は想像以上に深刻です。
- 緊急避難に関する情報、公平性、透明性が重要な情報が、もし一部の利用者に伝わらなかった場合を考えてください。
- ある口座のWebサイトで見つかった実例:視覚的には口座番号と残高が分かれて表示されていた。しかし、システムで吐き出した契約番号と残高の数値は分かれていなかったため、「残高は12億5千6百万円です」と音声読み上げしていた。
日常生活に便利なWeb、外出の難しい人には自宅で申請や買い物ができるのはとても便利です。これらの電子申請には更なるWebアクセシビリティが望まれます。
Q :私が管理するWebサイトのアクセシビリティ対応状況がわかりません。どのように調べたらよいのでしょうか?
Web管理者から出される最も多い質問で、答えるのに苦労する質問でもあります。
普段使うことの無い音声読上げブラウザを使って調べる。マウスを使わずにキーボードだけを使って調べる。これは簡単な様で大変難しい調べ方です。
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研究会や研修会で聞いた笑えない事例をご紹介しましょう。
- Webアクセシビリティは視覚障害者への影響が大きい、それなら視覚障害者自身に確認してもらおうと視覚障害者にお願いしました。
- 依頼された視覚障害者は大変です、時には意味不明の文章を聞かされ、別のウィンドウが開いた通知も受けられず待つことしばし。
- そもそも何が悪くて何が正しいのか分からないままにWebを確認することになるのですから大変です。
- 数例の結果を聞きましたが、全て視覚障害者が怒り出したそうです。
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初めに、専門の検査員に規格に基づいた検査を依頼しましょう。その後、検査結果の説明を聞き、自分で調べることができるか調べられないかを判断いただくことが必要です。
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検査の専門家は、一般的なブラウザの表示画面とソースコード画面の両方を見比べて検査をしたり、コントラスト比や発作の原因となる閃光の検査ツールを使うなどの専門的な検査をします。
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Web制作経験豊富な人が優秀な検査員と言えない専門分野と理解してください。
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なお、専門の検査員による検査結果で問題なしと分かった後に、実際に視覚障害者に確認してもらう(モニタリング)ことは大切です。
Q :アクセシビリティ対応の手本となるようなウェブサイトがあれば、具体的に教えてください。
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アクセシビリティ方針を策定し検査結果を公表しているWebはお手本となります。
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Webサイトのサイト内検索で「アクセシビリティ」と入力して検索すれば、そのWebサイトの対応状況は分かると思います。次の事例は平成26年3月時点です。
- 中央省庁では、経済産業省、総務省、防衛省などが参考になります。
- 企業のWebでは、キャノン、沖電気が参考になります。
Q :私はWeb制作者です。そもそも、高齢者や障害者のために行うわけですが、Web制作者にとってWebアクセシビリティ対応は何か利点がありますか?
Webアクセシビリティは高齢者や障害者のために行うのではありません。さまざなWeb利用機器への対応性を確保するために行うのです。
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Webアクセシビリティの検査をすると、Web制作者の技術力を評価することができます。少し事例で紹介しましょう
- 世に出て未だ10年ですが、この間のWeb技術は著しい進歩をしました。現在は、HTML4.01が中心です。既に多くの要素と属性が非推奨となっているのですが未だ多くの古い非推奨タグが見つかります。
- 非推奨タグを使っても不適合とはなりませんが、非推奨タグを使うことでWebアクセシビリティ対応問題を発生させていることが検査で見つかります。
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例えば、
- 視覚的に強調させたい用語を「bタグ」で太文字とした。これでは音声読上げブラウザでは強調した用語とは伝わりません。「strongタグ」で強調する必要があります。
- 見出し、または強調したいので、「font」タグでフォントサイズや色を指定した。この作り方もブラウザの文字拡大に対応しないなどの問題となります。
結論として、Webアクセシビリティに対応できるWeb制作者は、新しいWeb技術に対応出来ている制作者であると評価できます。
- インターネット黎明期からWebを制作していたベテラン制作者には頭の痛いのがWebアクセシビリティなのでしょう。
Q : 現在、何の対策もしていません。管理対象のウェブサイトのアクセシビリティを向上させるには、どのような手順で進めればいいでしょうか?
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アクセシビリティの専門家に把握する検査を依頼しましょう。
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現状把握の検査は、機械的な検査で簡単に全ページを確認できます。次に主要ページを目視検査します。
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検査結果を受けて、改善する計画を策定します。
- 現在の規格は2010年に改定されましたが、既に大量なページを公開していると思います。
- 古いページも含め全ページを、改定された規格に適合させるのは予算的にも時間的にも難しいと思います、
- 検査結果で見付かった問題の重要性、改善の緊急性、予算を考慮して改善する不適合箇所を、直ぐに改善をする、次期更新時に改善するなどを定めます。
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改善作業をします。改善作業は検査報告書を参考にしますので検査報告書の品質は大変重要です。
- 機械的な検査で見つかった不適合は機械的に改善できるでしょう。
- 目視検査で見つかった不適合は人が確認して改善作業が必要です。
- CMSを利用している場合、CMSを利用して改善します。
- テンプレート、CSSそしてJavaScriptなどは制作会社が改善することになると思います。
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改善が終了したら再度検査で確認します。
以上が手順の概要です。
Q : 対策にあたっては、方針やガイドラインを制定する必要はありますか?
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ウェブサイトの企画や目的はさまざまです。目的にに沿ったアクセシビリティ方針を制定することは必要です。
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方針には必ず目標とする達成等級を含めなければなりません。日本も各国政府のガイドラインは等級AAを目標としています。
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また、適用する達成基準項目、適用しない達成基準項目などを制定することも重要です。