「すべてのひとに優しい空」を目指し、「ユニバーサルなサービス」を加速させている全日本空輸株式会社(以下、ANA)
。同社は公式Webサイトにインフォ・クリエイツの「Web支援サービス」を活用することで、Webアクセシビリティの国際規格であるW3C*1勧告「WCAG 2.0*2」に現在対応しています。Webサイトの画面の背景色やデザイン、レイアウトなどをはじめとしたさまざまな改善や音声読み上げソフトへの正確な機能対応をすることで、視覚障がいのある方のみならず、高齢者を含めたすべてのお客様にとって使いやすいWebサイトを構築しました。その結果、全盲の方も電話によるサポートに頼らず、Webサイトを通じて航空券の予約・決済が完了できるなど、大きな成果をあげています。概要
クライアント様の課題
- ANA様では、東京2020オリンピックのオフィシャルパートナーとして、また、海外の多くの都市に就航している航空会社として、世界中の人々が利用するWebサイトに対し国際規格のWebアクセシビリティへの準拠が求められていました。
- 目の不自由な方はWebサイト上で航空券の予約・決済などが難しく、電話による支援に頼らざるをえない状況でした。
- Webアクセシビリティへの全社対応のために、専門機関のアドバイスを必要とされていました。
インフォ・クリエイツが提供したソリューション
- Webアクセシビリティ国際規格への現状の対応状況を調査、解決方針と解決までのプロジェクト計画をご提案。ANA様にてプロジェクトがご承認され、当社はプロジェクトマネジメントを遂行しました。
(プログラム検査サービス、プロジェクトマネジメント・サービス) - 当社のWebアクセシビリティ・エキスパートにより、航空券の予約・解約サイトを含む主要なページのWebアクセシビリティ詳細検査を実施。問題箇所の特定化と修正案をご提案し、修正を実施いただきました。
(規格適合性検査サービス、研修サービス) - ANA様における「Webアクセシビリティ方針」の策定、Webアクセシビリティ国際規格に沿ったホームページ作成時の「Webアクセシビリティ・ガイドライン」の作成をご支援しました。
(方針策定支援サービス、ガイドライン策定支援サービス)
効果
- 障がいのある方がWebサイトを活用し航空券を購入する際の操作性が大きく向上しました。
- アクセシビリティに対応することで、社員のユニバーサルサービスに対する意識が向上しました。
- 「すべてのひとに優しいWebサイト」の構築により、あらゆる方々に選んでいただける企業ブランド作りに貢献しました。
クライアント様の声
「Webアクセシビリティ対応を行い、あらゆるお客様が使いやすいWebサイトにすることは公共交通機関としての社会的責任です」と語るのは、ANA CX推進室CX戦略部 担当部長の小島永士 様です。このプロジェクトを主導された小島様と、同じくCX戦略部 サービス基盤チームの大藤純児様に、ANA公式ホームページのWebアクセシビリティ対応を実施された経緯から、弊社を選んでいただいた理由、その効果、今後の展望などについて伺いました。
アクセシビリティ対応への経緯や必要性、インフォ・クリエイツを選んだ理由
御社ホームページのWebアクセシビリティ対応について、どのような経緯や必要性からW3C勧告「WCAG 2.0」、および日本産業規格「JIS X 8341-3:2016」適合レベルAA対応を目指そうと思われたのでしょうか。
小島 弊社は東京2020オリンピックのオフィシャルパートナーです。2017年3月に発行された『Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン』の中の「情報のアクセシビリティ」で、W3Cについての記述があり、それが大きな契機となって、全面的に公式ウェブサイトのアクセシビリティ対応をする方向に舵を切りました。Webアクセシビリティ対応をすることがスポンサーとしての責任でもあり、目に障がいがある方々だけでなく高齢者を含む誰もが使いやすいウェブにすることは、公共交通機関としての社会的責任にもつながると考えました。
どのようなきっかけで弊社の「Webアクセシビリティ支援サービス」をお知りになり、お声がけをいただいたのでしょうか。 また、弊社を選んでいただいた理由をお聞かせください。
小島 専門機関の見地からのアドバイスも重要と考えていましたので、Webアクセシビリティの知見のある3社にあたりました。その中で特に、当時の御社社長がおっしゃった「日本中のWebサイトのアクセシビリティ対応を強化し、誰もが使いやすいインターネットの環境を作ることが弊社の社会的使命なのです。そこに日本の航空会社を代表するANAさんが賛同してくださったら、日本のWebアクセシビリティ環境の大きな飛躍になります」という熱い想いに大変共感しました。
そこで、第三者機関として日本で唯一適合証明書の発行が可能な御社にお願いすることといたしました。さらに、御社はICT推進を牽引する立場の総務省や経済産業省等の官公庁ホームページでの検査機関としての実績もあり、高い信頼感、安心感を持ってお願いすることができました。
クライアント様の課題
それまで御社のホームページでは、Webアクセシビリティについてどのような課題をお持ちでしたか。
小島 それまでは、比較的デザイン(見栄え)に重点を置く傾向がありました。当時は、Webアクセシビリティという観点をあまり強く持ちえておりませんでしたので、障害があるお客様から「使いづらい」といったお声もいただくことがありました。例えば、情報の違いを色で分けていたページに対して、「注意点が分からない」「音声読み上げに対応していない」といったお声を頂戴することとなっておりました。その場合、都度ご指摘をいただいた箇所に対応するといった状態で、ホームページ全体のWebアクセシビリティに対する基本ポリシーを設定する、といった動きまでつながっていませんでした。
インフォ・クリエイツが提供したソリューション
弊社の「Webアクセシビリティ支援サービス」を実際に利用され、どのようなメリットがありましたか。
小島 ANAのみならずWebサイトの制作会社担当者にも懇切丁寧に相談に乗っていただいたり、検査結果を納品して終わりではなく、結果の内容説明をしてくださったりしたことで、内容への理解はもちろんのこと、制作会社の担当者も当事者意識を持って能動的に取り組んでもらえるようになりました。
大藤 Webアクセシビリティ対応の難しさの1つにガイドラインの解釈の余地があることが挙げられますが、迷った際には、その都度御社と打ち合わせを行いました。状況に応じて一緒に答えを導いてもらえ、改善までのプロセスも丁寧に対応していただいたことは大変心強かったです。
小島 また、インフォ・クリエイツさんは日本で唯一の検査証明書、適合証明書の発行機関であることから、第三者機関に証明書を発行していただけることは弊社として安心感と達成感がありました。Webアクセシビリティの改善に向けた進捗過程でも、証明書があることで客観的に達成度が測りやすく、プロジェクトマネジメント上も管理しやすかったことなどが大きなメリットです。
さらに、御社には技術的な観点のアドバイスだけではなく、制作会社の担当者を含めて多くの関係者にどうやったら前向きに当事者意識を持ってもらい、誰もが使いやすいWebサイトを目指す風土づくりができるのかといったマインド醸成に関しても、過去の知見を基に多くのヒントをいただきました。
Webアクセシビリティ対応は一過性のものではなく継続して取り組んでいくものであり、技術的な改善の大前提となる組織風土、一人ひとりの意識改革も重要課題と思っておりましたので、その点にも寄り添った対応をしていただけて大変助かりました。
社内の理解を得て、社外へと展開
Webアクセシビリティの向上を実現するには、予算もノウハウもワークロードもかかりますが、経営層や関係部署、Webサイトの制作を請け負う制作会社などにどのように説明や説得をなさいましたか。
小島 ANAウェブサイト、ANAアプリを管轄する部署は、機能ごとに組織構造が複雑に重層化しており、必要性の理解促進、横連携を進めるには正直、大変苦労しました。社内での理解促進や社外の制作会社の方々にご協力いただくためのポイントは、3つありました。
まずは、「お客様視点」です。Webアクセシビリティ対応をすることによって、ANAはお客様にどのような体験価値をお届けすることになるのか、お客様の利便性、快適性がどう高まるのかという観点で分かりやすく身近に感じられるような説明を心掛けました。「誰もが使いやすいウェブサイトにする」という共通認識を、すべての関係者が持てるようにすることに重点を置き、各部の担当者、制作会社に対して、直接出向いたり、オンラインで説明会を何度も開催したりしました。
必要性の理解については、毎回、弊社関連会社の全盲の利用者に実際にデモをしてもらいました。日常利用やANAホームページを操作する様子を見てもらうことで、制作会社の担当者にも納得と理解をしてもらうようにし、自分の仕事が単なる作業ではなく、お客様の体験価値にどうつながるのかという点を意識し、理解してもらうように工夫しました。
2つ目は、御社による「技術面へのバックアップ体制」です。私たちが所属する部署では、Webアクセシビリティを牽引する立場にはありますが、細かい技術的な知見には不足があります。一方で制作会社の担当者にとっては、これまでの慣れた制作フローの変更や新たな知識習得の必要があり、その過程では技術的な迷いも発生します。そのような場面では専門知識を持った御社から直接、技術的な側面で適切な助言を得られたことで迅速な対応につなげることができ、制作会社側の安心にもつながったと思います。
最後の3つ目は「経営トップの巻き込み」です。幸い経営トップもアクセシビリティに対する深い理解がありました。トップメッセージとして「アクセシビリティの重要性」を発信するとともに、社内外プロモーションを多く実施し、アクセシビリティの取り組みが社会にどう影響するのかを社員はじめ制作会社の皆様にも理解してもらうようにしました。
効果と今後の更なる展望
Webアクセシビリティの向上を実現したことによって、どのような効果がありましたか。
大藤 見やすくなったなどの効果はもちろんありますが、全盲の方がご自分で航空券の予約、座席指定、購入までWeb上で完結できるようになり、予約センターへ電話をかけるお客様の負担が軽減されたということが特に大きな成果だと思います。
対応後(右)は、見た目は同じ画面ですが入力すべき内容がきちんと聞こえてくるので、全盲のお客様もキーボード操作によって自分で簡単に予約ができるようになりました。
小島 Webを含めたアクセシビリティ向上に関するプレスリリースも発出しており、「すべてのひとに優しい空」の実現に向けて、ブランドイメージの向上にも大きく貢献していると考えています。
また、弊社経営層を含めて、社内で「アクセシビリティ」または「ユニバーサルサービス」という言葉が定着し、社員の意識が高まっていることを感じています。これらの取り組みは、社会に貢献し、ESG*にも寄与しているという意識付けにもつながっています。
さらに、アクセシビリティ分野では各国法令も今後厳格化する動きもあります。世界各地に就航するANAにとっては各国法令に準拠する必要があり、現在の取り組みはグローバルレベルのアクセシビリティ対応を先んじて実施していることになります。国際規格に準拠した対応をしていくことは、将来の変化にも適応しやすくなります。
現在、テレビや新聞・ネットなどのメディアで企業のSDGsに対する取り組みが紹介され、消費者からも大変注目されています。御社のダイバーシティ&インクルージョンの取り組みをご紹介いただき、あわせて今後実現されたい取り組みなどについて、ご紹介をお願いいたします。
小島 Webアクセシビリティについては、社内でも一定の理解や対応は得られているものの、日々ページが更新され新たな制作会社が携わるなど、すべての対応が完成されているわけではありません。Webアクセシビリティの品質の維持・向上を図るとともに、今後、モバイルサイトやアプリなどのサービス提供にあたっても、誰もがアクセスでき利用できる情報のアクセシビリティの実現に向けて、設計し提供していきたいと考えております。
今はコロナ禍で皆さん移動を控えられている状況ではありますが、どんな状況でも、障がいのある方や高齢者を含めたすべてのお客様が安心して飛行機にお乗りいただけるよう、ANAグループが一丸となって取り組んでまいります。
(参考)
- ANA様のウェブアクシビリティ方針:
https://www.ana.co.jp/ja/jp/siteinfo/share/webaccessibility/ - 社長メッセージ: ANAホールディングス株式会社 代表取締役社長 片野坂 真哉様の年頭挨拶で、アクセシビリティの成果を発表(2020年1月)
https://www.anahd.co.jp/group/pr/202001/20200106.html - ESGとの関わり: ANAホールディングス ソーシャルボンドの発行
https://www.anahd.co.jp/group/pr/201904/20190417-2.html
全日本空輸株式会社CX推進室CX戦略部 担当部長
小島 永士様
全日本空輸株式会社CX推進室CX戦略部 サービス基盤チーム
大藤 純児様
全日本空輸株式会社
〒105-7140 東京都港区東新橋1丁目5番2号 汐留シティセンター
https://www.ana.co.jp/
「世界のリーディングエアライングループ」を目指す日本を代表する航空会社の一社。
2020年現在、国際線第1位、国内線第2位の輸送実績を誇る。国際線はアジア諸国とヨーロッパ諸国、アメリカ合衆国に運航。航空会社連合「スターアライアンス」のメンバー。
インフォ・クリエイツ担当者の声
ANA様のWebサイトは、航空券およびツアーの予約・解約サイト、国際線でのサービスやANAマイレージクラブの内容を紹介するサイトなど多岐にわたり、関係者も大変多くいらしゃいます。プロジェクトとしては決して簡単ではなく、できるだけお客様のご負担を増やさないようにすることに注力しましたが、振り返ってみるとANA様の各ご担当者に随分とご協力をいただいておりました。私たちは、ANA様のWebアクセシビリティに対する使命感と熱意を感じながらプロジェクトを進めることができ、そうした会社様と共に仕事ができたことをとても嬉しく誇りに思っています。
当プロジェクトは、弊社にとってワールドワイドなWebアクセビリティ対応への経験と実績を積む貴重な機会をいただいたと同時に、これまでの知見を活かすことで最適な活動が行えたと考えております。今後もANA様の良きパートナーとして、航空機をご利用になる全てのお客様のことを思いながら、ウェブアクセシビリティの維持・向上に尽力してまいります。
本件に関するお問い合わせは下記からお願いします。